短期前払費用の特例(家賃・保険料など)
法人税、所得税共に短期前払費用の特例という取り扱いがあります。両税目とも将来受けるべきサービスの対価を前払した場合には、そのサービスを実際に受けるまでは損金もしくは必要経費算入とならない(前払費用という資産として計上する)のが原則ですが、それを支払った日の年度に損金もしくは必要経費算入して良いというものです。ただし、いくつか注意点がございますので、以下説明します。
規定の内容
法人税も所得税もほぼ同じ内容の規定ですので、法人税の基本通達を記載します。この規定が適用できなければ、原則どおり資産計上が必要になります。
法人税基本通達2−2−14(短期前払費用)
前払費用(①一定の契約に基づき②継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額で③その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を④継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「七」により追加、昭61年直法2-12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、⑤収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
番号に関しては筆者が付番したものですが、以下その5点に関して説明します。
①一定の契約に基づき
まず、契約に基づかなければなりません。契約していないのに1年分の賃料を勝手に前払し、損金算入させることはできません。
②継続的に役務の提供を受けるために支出した費用
この点がもっとも重要かと思いますが、そのサービスの性質が「継続的に役務の提供を受ける」ことが必要になります。従って、例えば、来年の一定時期に放映するCM料や前払顧問報酬などの一定のタイミングで特定のサービスを受けるような支払はこの要件に該当せず、いわゆる「前払金」になります。一方、例えば家賃や保険料のように、支払った期間を通じて全く同様のサービス(いわゆる「等質等量のサービス」)を受ける支払いが、本規定の適用対象となります。
③支払った日から1年以内に提供を受ける役務
この要件は、支払った日から1年以内にその支払いに係る役務提供を受けなければなりません。従って、たとえ家賃の支払いであったとしても、年末に翌年2月からの1年分を支払った場合には、支払った日から1年と1ヶ月先に係る役務提供も含まれてしまうため、適用できません。もちろん、一般的によくある翌月1月分を年度末に支払うのは、1年以内に役務提供を受けるため適用可能です。
④継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているとき
会計でいう、いわゆる継続性の原則です。去年は所得が出てたから特例適用したけど、今年は所得があまり出てないからやめようなんてことはできません。
⑤収益の計上と対応させる必要があるものについては後段の取扱いの適用はない
収益と対応させるべき利息などは、原則通り期間対応で繰り延べる必要があります。
やはり、この規定が適用できるかどうかの判断のポイントは②に該当するかどうかかと思います。一方で、適用すること自体についても気をつける必要があります。
損金算入効果(節税効果)の時期と資金繰りについて
この規定を適用することによる節税効果は、この規定を適用した年度しか得られません。なぜなら、上記④の継続適用の要件があるためです。一方、この規定を適用させるために無理に前払することも、資金繰りのことを考える必要があり、必ずしも効果があるとは言えません。適用する際は、慎重に判断しましょう。