租税条約③−短期滞在者免税

前回はインド法人への技術役務提供料金に対する租税条約の取り扱いを解説いたしました。今回は、海外子会社に出向した従業員などに対する給与の考え方で頻出する租税条約の論点、短期滞在者免税に関して解説いたします。

事例

アメリカの子会社に3年間の任期で出向した日本法人の従業員がいるとします。アメリカ子会社の給与水準は日本法人の給与水準と比較し低いため、出向者に不利にならないよう、出向者本人の給与水準は保ち、現地の給与水準と日本法人の給与水準との差を較差補填金として日本法人が負担しているとします。この出向者は業務で年に数回日本に出張しています。この場合の給与に対する所得税の考え方はどうなるでしょうか。

国内法の考え方

前回と同様、まずは国内法の考え方を整理します。国内法ではすでに出向者は日本の非居住者となっているため、日本で仕事をしなければ日本国内源泉所得はなく、日本国に課税権はありません。この出向者は出張ベースで日本で業務を行なっているため、日本出張に係る部分のみが日本国に課税権があり、日本出張に対応する部分で日本法人が支払っている分は日本法人が源泉徴収しなければならず、更に出向者はアメリカ法人から支払われている給与のうち、その日本出張に対応する部分のみを抽出して、日本法人が源泉徴収した分と合わせて確定申告しなければなりません。

租税条約の考え方

日本とアメリカとの国際取引になるので、ここでも租税条約を検討しなければなりません。本案件で検討すべき日本とアメリカの租税条約(日米租税条約)の条項は第14条(給与所得)です。日米租税条約の第2では、今回の記事のタイトルにもなっている短期滞在者免税の特例に関して定めています。

短期滞在者免税

短期滞在者免税は租税条約毎に異なりますが、本事例の日米租税条約の第14条第2を記します。

  1. 当該課税年度において開始または終了するいずれの12カ月の期間においても他方の国に滞在する期間が合計183日を超えないこと
  2. 報酬が他方の国の居住者でない雇用者またはこれに代わる者から支払われるものであること
  3. 報酬が他方の国に存在する雇用者の恒久的施設によって負担されるものでないこと

1はいわゆる「183日ルール」と呼ばれるもので、半年以上その国に滞在したかどうかという点です。今回の事例では、日本に183日以上滞在していなければ良いということになります。2を飛ばして3は本事例で考えるとアメリカの子会社が日本に支店等を有している場合で、これも該当しません。問題は2で、この事例では較差補填をしているのでその部分は短期滞在者免税の適用を受けることができません。従って、日本法人が較差補填している部分が日本で課税され、源泉徴収が必要になるということになり、米国で支払っている給与は日本では免税扱いになるということになります。

今回は租税条約の中でも短期滞在者免税の適用に関してスポットを当てて説明しました。特に、海外子会社に出向者がいる日本法人では、その出向者が日本に出張してくることはよくあることだと思います。国際源泉所得税の税務調査でも本件は頻出事項であるため、そのような会社は注意が必要です。