租税条約②−インド法人への技術役務提供に対する支払い
前回例示であげた「インドの弁護士法人に対する報酬の支払い」に関し、国内法との関係を交えながら、なぜ日本で源泉徴収をした上で支払わなければならないのか、解説致します。
所得税法(国内法)の考え方
今回のインドの弁護士法人に対する報酬の支払いについて、所得税法上は、外国企業が行う特定のサービスに対する報酬に該当し、別の言い方をすると非居住者が行う人的役務の提供に対する対価に該当すると考えます(所得税法161条第1項第6号)。この場合、「日本国内」でサービスを提供している場合はインド法人に対して日本国が課税権を有することとなりますが、その弁護士が来日せず、インドでサービスを提供しているのであれば、日本国に課税権はありません。この考え方を「使用地主義」と呼んでおりますが、今回は来日をしていない前提ですので、日本の国内法上は日本に課税権はなく、源泉徴収は不要となります(まだ結論ではないので、続きをご覧ください)。
租税条約上の考え方
国内法では源泉徴収不要となりましたが、今回の取引はインド法人と日本法人の取引です。従って、日本とインドの租税条約(日印租税条約)を検討する必要があります。
まず、今回の報酬が日印租税条約上のどの所得に分類されるかを判断しなければなりません。早速結論になってしまいますが、第12条の「使用料及び技術上の役務に対する料金」に該当します。詳細は第12条の第4をご参照ください。
では、第12条の所得の種類に該当するとどうなるかというと、第12条の第6において「…技術上の役務に対する料金は、その支払者が…一方の締約国の…居住者である場合には、当該一方の締約国において生じたものとされる。…」と記載されています。かなり抜粋していますが、要は「支払いをする法人の属している国で発生した所得とするよ」と定めており、これを「債務者主義」と呼んでいます。
更に、第12条の第2において、「技術上の役務に対する料金に対しては、これらが生じた締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、…10パーセントを超えないものとする。」とされています。つまり、「生じた国」でも租税を課すことができて、それは10%を超えちゃダメだよとされています。
総合すると、今回の取引は、租税条約第6において支払う法人が属している国で生じた所得とし、第2において所得が生じた国では10%を超えない税率で課すよとしています。
今回の事例における日本における課税の結論
前回の記事で記載したように、租税条約は国内法よりも優先されます。国内法では源泉徴収義務がなかった報酬の支払いなのに、インド法人に対する支払いであるが故に日印租税条約が適用され、日本に10%の課税権が与えられ、結果的に10%の源泉徴収が必要になります。
留意点
本事例は、まずインド法人に対する支払いであることが前提です。インド在住の個人の方や他の国との取引の場合は、取り扱いが異なりますのでご注意ください。また、10%の源泉徴収が必要である他に、租税条約の届出書を提出しなければならない、源泉徴収されたインド法人は原則日本において法人税の申告をしなければならないなど論点は他にもあります。気になる点があれば、お気軽にお問い合わせください。